2010年11月18日
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面白ショートショート『戦え! 最強無敵絶倫男』

Written By: 遠野秋彦連絡先

 あるところに2人の男が居ました。

 1人は屈強で1人はひ弱でした。

 しかし、2人は仲良しでした。

 ある日、2人が森の中を歩いていると行き倒れの妖精に出会いました。

 すぐ水筒を飲ませると妖精は元気になりました。

 「危ないところをありがとう。お礼に2人は何かお礼をしたいと思います。望みを何でも言ってください」

 「なんでも?」

 「はい、何でもです」

 「本当に何でもいいの?」

 「お金は困りますけど。それ以外なら。金儲けの才能でもいいですよ」

 そこで、2人は顔を見合わせました。性欲溢れる若い男の考えることは決まっています。

 屈強は言いました。「あらゆる女を満足させる才能をくれ」

 ひ弱は言いました。「たった1人でいいから愛する女性を満足させる才能をくれ」

 「はいはい。おやすい御用です。では妖精魔法をえいっ!」

 そして妖精はどこかに飛んでいきました。

 村に戻ると、さっそく屈強は村中の娘を口説き始めました。

 ひ弱は大好きだったあの娘にアタックに行きました。

 そして妖精の言葉に嘘はなく、それに成功しました。

 しかし、いざ成功してみると、いつも多数のガールフレンドに囲まれた屈強が、ひ弱にはうらやましくてたまりませんでした。いくら本命でも、彼のガールフレンドは1人きりです。それしか妖精にお願いをしていないからです。

 しかも、本命の女すらも、屈強に少し気があるようでした。彼が全ての女にもてる以上、例外はなかったのです。

 「ああ。あのとき、妖精に同じお願いをしておけばよかった」ひ弱は嘆きました。

 しかし、彼女はそんなひ弱をベッドの中で慰めてくれました。彼女だけは満足させられるのが彼のもらった才能でした。

 そんな日々はいつまでも続きませんでした。村のほとんどの女が屈強の身体の虜になった頃、急に屈強は女が遠巻きになったことに気付きました。

 「はてなぜだろう。確かにオレはどんな女も満足させる才能をもらったはずなのに」

 いつの間にかスターになった屈強は、女達が牽制しあって手を出せない高嶺の花になっていたのでした。

 才能があるがゆえに、誰も女が屈強のものにならないという奇妙な状況が訪れて毎晩屈強は1人で寝ることになってしまいました。

 一方で、ひ弱はというと、既に本命の女と幸せな家庭を築いていました。

 「全ての女から均等に愛されるより、本命の女からだけ愛された方がお得だった!」

 屈強は今日も女に遠巻きにされ、1人寂しく寝るのでした。

「悪魔28号。今日も強欲な人間に呪いを与えたかね?」

「はい。行き倒れの妖精のふりをして、欲の突っ張った人間に、愛する人間と結ばれない呪いを与えておきました」

「今頃さぞ不幸な日々を送っているのだろうね」

「ええ。今時欲が無くて殊勝な若者には少しだけ福を与えておきましたけど」

「それは物好きだな」

「悪魔もバランスが大切ですよ」

(遠野秋彦・作 ©2010 TOHNO, Akihiko)

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